#9 R.I.P

2016/01/28(木)

 

昨日、祖母の家のペットのゴールデンレトリーバーが亡くなりました。祖母の家は隣町なので僕は小さい頃からよく訪ねていました。

中学までは頻繁に行っていたのですが高校ではクラブが忙しくてなかなか行けなくて、大学生になった今もバイトや学校でそれほど頻繁に行くことができませんでした。

それでも僕のことを見ると大きく尻尾を振ってなついてくれました。元気な頃は会うたびにひっくり返して遊んでました。あの時はひっくり返ることことができるぐらい体も軽かったのに、いつの間にかぶくぶく太ってました(笑)

大型犬なので体も大きく一時期は僕と同じぐらいありました。僕も小さいながらも大きくなったのでさすがに同じだけ大きくなることはできませんでしたが。

なんかほんと友達だった気がします。賢い犬だったし、なによりかわいかったし、大好きでした。11年生きたらしく、僕が9歳の時に来たのかと思い出してました。小さい頃から一緒に大きくなってきたような感じがします。寿命の違いはあれどお互いにすくすく育ってたんでしょうね。

 

昨日連絡を受けて授業が終わりすぐおばあちゃんちへ向かいました。いつも寝ていた玄関を見てもすっからかん。綺麗な空間でした。

奥を見ると見慣れた毛色が目に入りました。ああ、いた。

靴を脱いで廊下に上がると一番手前の部屋に彼女は寝ていました。それは玄関から左手の部屋で普段は物置でした。そこに毛布を被って寝ていました。右手の部屋は扉で隔たれていて、そこからおじいちゃんとおばあちゃんの声が聞こえてきました。いつもはすぐに挨拶するのですが、どうしてもその前にしなくてはいけないと思った。

恐る恐る僕は彼女の頭を触りました。死後硬直、という言葉が僕の脳に浮かんできましたが、そんなことはなかった。いつものように柔らかかった。その柔らかさが逆に僕の後悔を強くする。もっと早く来てれば。責めても仕方ないことでもどうしても責めてしまう。

僕に気付いた二人が近づく。なにか言っていたけど覚えていない。

お線香をあげてあげてと言われたのでマッチで火を起こし線香をあげる。マッチの火を消そうと息を吹きかけるが消えない。右手の親指と人差し指に火が当たる。「マスク、マスク」といつの間にか二階から降りてきた親父に言われる。そこでやっと自分がマスクをしていたことに気づく。そして同時に、そんなことに気づかないほど頭が追いついていないことに気づく。

線香をあげて合掌する。

涙は流れない。なぜだか分からない。

 

そこからしばらく二階にあがって工場の人達と話しをした。

途中おばあちゃんが二階に上がってきて、泣きながら思い出話をした。

そんな悲しい話でもしょうもないオチをつけるおばあちゃんはさすがだった。

 

もう時間だからと言って帰る支度をして一階に降りる。

明日に火葬すると言われたので最後の挨拶をする。

もう一度頭をなでる。硬くなっている。さっき脳に浮かんだ言葉がもう一度蘇る。

そうか、死んじゃったのか。

やっと実感する。

誰も見ていないのを確認して彼女に顔を近づける。いつもと同じように。

 

「ありがとう、さくら」

 

いつもと同じように笑顔で。

 

泣くこともできない不器用な僕にはそうすることしかできなかった。心が冷たいのかもしれない、そんなことも思ってしまうほど自分でも驚いている。

でも僕は本当に感謝している。

そしてこうも思った。

最後にありがとうと言われるなんて、良い人生じゃないか。

 

僕はまだそうなれそうにない。